この表を見ると、主演は『ビッグ・ファイブ・デイ』と『スタンダール・シンドローム』を除いてイタリア人ではないことに気づくはずだ。そして映画の舞台もイタリアではないことが多い。ダリオ・アルジェントの映画はイタリア的ではないのだ。イタリア映画らしくないといったほうが正しいかもしれない。 アルジェントは処女作の『歓びの毒牙』から国際市場を意識した態度を貫いている。『サスペリア』ではドイツにロケを敢行。続く『インフェルノ』ではニューヨークロケを行っている。『シャドー』の舞台はローマだが、その中でも近代的なEUR地区が選ばれた。典型的なローマの風景とは異なる。『シャドー』の冒頭では自転車でケネディー空港に向かう主人公の描写があるが、これも作品にインターナショナルな雰囲気を加えたかったからこそ、この描写が必要だったのではないか、とも考えたくなる。映画としてはいきなりローマからストーリーが始まっても全く問題はないはずだ。 『フェノミナ』の舞台はスイス。スイスの国旗がはためくショットがある。このショットもスイスロケを強調したかったためだけのものだろう。主演のジェニファー・コネリー、ドナルド・プレゼンスともアメリカ人俳優であることなどの理由もあるかもしれないが、映画からイタリアらしさを感じ取ることはできない。『オペラ座/血の喝采』では久しぶりにイタリアが舞台となるが、ジョージ・A・ロメロとのオムニバス映画『マスターズ・オブ・ホラー/悪夢の狂宴』、続く『トラウマ/鮮血の叫び』では、再び舞台をアメリカに移している。 『スタンダール・シンドローム』は冒頭にフィレンツェのウフィツィ美術館のシーンを持ってくるなど、徹底的にイタリアを意識した作品に仕上がっている。ただ、アルジェントは当初、この映画もアメリカでの制作を考えていた。『オペラ座の怪人』の舞台は原作どおりにパリのオペラ座。『デモンズ3』と同じハンガリーのブダペストでも撮影された。 ダリオ・アルジェントはイタリアン・ホラーの旗手だといわれる。しかし、本当にそうだろうか。彼がアメリカ人であれば誰もアメリカン・ホラーの旗手などとは呼ぶまい。イタリアン・ホラーの系譜であるとか、イタリア恐怖映画の歴史などと題する文献は多いが、アルジェントはイタリアン・ホラーの系譜のなかで語るには無理がある。映画に国境はない。アルジェントはホラーの旗手なのだ。
アルジェント作品の主役と映画の舞台となる国
アルジェント作品の主演と映画の舞台となる国を総括してみよう。