OPERA
オペラ座/血の喝采

Also Known As: Terror at the Opera (1987), Terreur a l'opera (France)

 
"I think it's unwise to use movies as a guide for reality. Don't you,Inspector?"
 - Marco

video sleeve

1987 Color



[STAFF]

Opera監督:ダリオ・アルジェント
制作:ダリオ・アルジェント
製作:チェッキゴリグループ タイガーチネマトグラフィカ、ADCプロダクション、協力RAI
製作総指揮:フェルディナンド・カプート
配給 : WB
脚本:ダリオ・アルジェント、フランコ・フェリーニ
撮影:ロニー・テイラー
音楽:ブライアン・イーノ、ロジャー・イーノ、クラウディオ・シモネッティ、ビル・ワイマン
美術:デバイデ・バッサン
美術監督:ジャンマウリツィオ・フェルシオーニ(テアトルレジオ、パルマ)
衣装:リア・フランチェスカ・モランディーニ
編集:フランコ・フラティチェリ
メイクアップ:ロザリオ・プレストピノ、フランコ・カザーニ
ヘアメイク:フェルディナンド・メローラ
プロダクション・スーパーバイザー:ヴェレーナ・バルディオ、アレッサンドロ・キャロスキ
ユニットマネジャー:ファブリツィオ・ディアス、オリビエ・ジェラール
第1助監督:アントニオ・ガブリエリ、パオロ・ゼナテッロ
第2助監督:アレッサンドロ・インガギオーラ
第2班監督:ミケーレ・ソアビ
小道具:マウリツィオ・ジャコペッリ、オスヴァルド・モナコ
美術監督助手:レナート・ロリ、アントニオ・タローラ
セットドレッサー:ヴァレリア・パオローニ
音響編集:ニック・アレクサンダー
ミキサー:ジャンカルロ・ラウレンツィ
ダビング:ロマノ・ポンパローニ
ADR演出:ロベルト・リエッティ
マイク操作:ステファノ・ロッシ
ドルビーコンサルタント:フェデリコ・サビーナ
特殊効果デザイナー:レナート・アゴスティーニ
特殊効果:アントニオ・コリドーリ、ジョバンニ・コリドーリ、ジェルマーノ・ナターリ
アニマトロニクス:セルジオ・スティバレッティ
衣装助手:エンリカ・バルバーノ
編集助手:ピエロ・ボザ、アレッサンドロ・ガブリエリ
第2編集助手:ロベルト・プリオリ
歌手:マリア・カラス
秘書:アンジェロ・カバーロ、エーレ・フリッジェリ、フランチェスコ・マッラス、パオラ・ロッシ
経理:レナート・リナルド、カルロ・デュボワ、フェデリカ・ザッパーラ
動物トレーナー:マウリツィオ・ガローネ
衣装作成:フランチェスカ・グランディ
カメラ助手:マッシモ・イントッパ、マウリツィオ・ルッキーニ、ウーゴ・メナガッティ
第2班撮影監督:ルカ・ロベッキ、レナート・タフリ
第2班カメラ操作:エンリコ・マッジ
スクリプター:チンチア・マラテスタ
スチール:ジャンフランコ・マッサ、ロベルト・ニコシア・ヴィンス、フランコ・ヴィターレ
宣伝:エンリコ・ルケリーニ、ジャンルカ・ピナテッリ
照明:フェルナンド・マサケッシ
カメラ操作:アントニオ・スカラムーザ
セルジオ・スティバレッティ助手:バルバラ・モロセッティ
スティディカム操作:ニコラ・ペコリーニ
キーグリップ:エンニオ・ピッコーニ
クラッパーローダー:ロベルト・ディ・フランチェスキ

[CAST]

ベティ:クリスチーナ・マルシラッチ
マルコ:イアン・チャールソン
アラン・サンティーニ警部:ウルバーノ・バルベリーニ
ミラ:ダリア・ニコロディ
ジュリア:コラリーナ・カタルディ・タッソーニ
マリオン:アントネッラ・ビターレ
ウルバーノ:ウィリアム・マクナマラ
アルベルティーニ:バーバラ・クピスティ
バッディーニ:アントニーノ・ジュオリオ
アルマの母親:キャローラ・スタナーロ
アルマ:フランチェスカ:カッソーラ
マウリツィオ:マウリツィオ・ガローネ
マリア:クリスティーナ・ジャキーノ
ミロ:ジョルジー・ジョリバンニ
ビヨルン・ハマー
ピーター・ピッチ
セバスティアーノ・ソンマ
マクベスのソプラノ:エリザベス・ノーバーグ・シュルツ
マクベスのバス:ミケーレ・ペルツッシ
ダニエレ・ソアベ刑事:ミケーレ・ソアビ

その他の情報

録音:ドルビー

フィルムネガフォーマット:35 mm
現像:スーパー35
フィルムプリントフォーマット:35 mm(アナモルフィック)
画面比 2.35:1
時間:97分、米国:107分(ディレクターズカット)

公開日:日本1989年2月11日、イタリア1987年12月19日、ポルトガル1990年2月(ファンタスポルト映画祭にて、最優秀賞ノミネート)、米国1991年9月6日(ビデオリリース)

キネマ旬報掲載:批評1003号

ストーリー

opera ベルディのオペラ「マクベス」には、不幸を招くという迷信がある。が、そんな噂をものともせず、スカラ座定期公演のプレミアで敢えて「マクベス」に挑んだ前衛派演出家のマークは、そのシュールな特珠効果でオぺラファンの度肝を抜いた。ところが本稽古の最中、マークと言い争い、怒って外に飛び出したソプラノ歌手のマーラ・チェコパが車にひかれてしまう。マーラの代役となったベティは、若く経験が浅いにもかかわらず、堂々と「マクベス」を歌いあげる。しかし、「マクベス」がクライマックスにさしかかったとき事件が起きた。照明係がフックで首を刺し貫かれて殺されたのである。事件は続く。終演後のオペラ座、ベティの楽屋に怪しい人影が侵入する。ナイフで華やかな舞台衣装を切りさき、さらに異変を感じて飛んできたカラス(「マクベス」ではカラスが使われていた)の首を切り落としていく。

 そして、成功の喜びを分かちあうベティと恋人ステファノの寝室にも、人影は忍び寄った。ステファノが部屋を出た際に、怪しい手がベティの口を塞ぐ。打ち消される叫び。柱に縄り付けられ目の下に針を張り付けられるベティ。何も知らずに戻ってきたステファノにナイフが振り下ろされるまばたきをすれば針が目に突き刺さるので、目を閉じることのできないベティどうしても目を閉じることはできない。その前で恋人がなぶり殺されていく。さらに数日後には衣装係のジュリアがはさみで体中を刺されて殺された。そんななかでベティの身を案じたアラン警部補は、彼女に護衛を送ることにした。ところが時すでに遅く、彼女の家を訪問中のエージェント、ミラがドアの覗き穴から眼に銃弾を撃ち込まれて殺される。そして、恐るべき魔手はいよいよベテイに迫っていく。以前どこかで同じ体験をしたという「デジャブ」をべティは感じ始めていた。

 マークは犯人をさがすために舞台の公演中にカラスを観客席に放つ。カラスは犯人に襲い掛かり、目をえぐった

 犯人はアラン刑事だった。ベティは身体を休めるためにアルプスに出かける。ベティはアランに殺されそうになるが、アランのふいを突き、石で殴りつける。アランは逮捕され、ベティは自由を謳歌するのだった。

撮影監督はロニー・テイラー

 『オペラ座/血の喝采』の撮影監督はイギリス人のロニー・テイラー。アルジェントがイタリア人以外の撮影監督と組んだ映画は『オペラ座/血の喝采』がはじめてだ。だが、アルジェントとロニー・テイラーが一緒に仕事をしたのはこの映画が最初ではない。アルジェントはイタリアの自動車会社フィアットのCMを手掛けたことがある。

 『オペラ座/血の喝采』の撮影に入る前に、アルジェントはスカラ座の内部でカラスが飛びまわるシーンなどのテストをしたいと思っていた。そこでアルジェントはフィアットのコマーシャルの仕事を引き受けた。『オペラ座/血の喝采』で使うステディカムのテストができるうえにスポンサーからのギャラも得られる。CMの撮影はオーストラリアの砂漠とローマで行われたが、この時の撮影監督がロニー・テイラーだったのだ。撮影は2−3週間に及び、アルジェントとロニー・テイラーは大親友になった。CMの撮影が終わり、アルジェントは『オペラ座/血の喝采』の撮影監督を彼にオファーしようと決めた。また、このCMを撮影するための技術は『オペラ座/血の喝采』に活かされた。

 『オペラ座/血の喝采』のラストは『フェノミナ』のオープニングシーンにつながっている。『オペラ座/血の喝采』ではラスト近く、スイスに昆虫の映画を撮影しにきている演出家が描かれている。「彼は『フェノミナ』を撮影しているのだ」とアルジェントは説明する。『フェノミナ』の後に『オペラ座/血の喝采』が作られたとしても、「順番は関係ない。もしビデオで見るのであれば、どちらを先に見てもいいはずだから」と話している。フェノミナでロケしたときから、アルジェントはスイスの山岳地帯を気に入り、映画のラストに最適だと思っていたという。

 『オペラ座の怪人』はアルジェントの好きな映画の一本だった。初めて見たのはアーサー・ルービン監督、クロード・レインズが怪人を演じた『オペラの怪人』で、アルジェントはこの作品に恐怖を感じると同時に魅了されたという。だが、アルジェントはこの作品から直接の影響を受けてはいない。『オペラ座/血の喝采』を作った理由は、アルジェント自身がオペラに慣れ親しんでいるからである。アルジェントは当初、映画ではなく、実際にオペラ座でオペラの公演を演出したいと思っていた。オペラ『リゴレット』を一ひねりした作品に仕上げようと考えていたという。しかし、この企画は結局、実現しなかったため、アルジェントは映画『オペラ座/血の喝采』を撮ることにした。

 『オペラ座/血の喝采』の後、アルジェントは再び、オペラ座を舞台にした映画を作る。それが『オペラ座の怪人』である。アルジェントは『オペラの怪人』をいつかリメイクしたいと考えていた。同じガストン・ルルー原作でセルジオ・スティバレッティが監督の『肉の蝋人形』をアルジェントが製作しているときから、『オペラの怪人』のリメイクを企画していた。

 『オペラ座/血の喝采』のラストに出てくるスイスの山岳地域のロケ現場へは地理上の問題から、山道を徒歩で撮影機材を運搬しなければならなかった。機材を運んでいる途中で何人かのスタッフは疲れてへたり込んでしまったため、撮影クルーは彼らをそこに残したまま、現地を目指さなければならなかった。アルジェントは「映画の仕事は体力勝負だ。体力のない者は途中で挫折する」と語っている。

最高の制作費を投入

 『オペラ座/血の喝采』はアルジェント作品のなかで、もっとも予算のかかった作品で、制作費は800万ドルであろ。

ダリア・ニコロディを貫通する銃弾の秘密

 『オペラ座/血の喝采』では銃弾がダリア・ニコロディの頭を貫通するショットがある。これは、コンドームの中に血糊を入れ、片目につけたアイパッチに仕込み、そこから血しぶきがあがる仕組みになっていた。ダリア・ニコロディは何も見えない状態で弾丸が飛んでくるのをじっと待っていなくてはならなかったという。

 ダリア・ニコロディは『オペラ座/血の喝采』喝采をアルジェントのほかのスリラー映画と比較しても出来の良くない作品だと評価する。ストーリーが混乱していて、何度も繰り返し見たいという気にはさせないうえ、音楽が合っていないせいか、全体の雰囲気もいまいちだという。ただ、劇場の中にカラスを放つシーンと、ダリア・ニコロディが殺されるシーンは個人的に好きだという。

『オペラ座/血の喝采』のエンディングもフェノミナと同様に善悪の二分論に陥っている。これに対して、ダリア・ニコロディは「間違った終わり方をしている」と指摘する。ニコロディは撮影中ずっと、アルジェントに脚本からそのエンディングをはずさせようと試み、言い争いをした。アルジェント自身はダリア・ニコロディの提案を受け入れる気はあったようだが、結局そのような状況に対して柔軟に対処することができなかったようだ。

キネ旬、「恐怖の美学に磨きをかけたアルジェント」

 キネマ旬報増刊号では冨谷洋氏が『オペラ座/血の喝采』を次のように批評している。「カメラが華麗に動き回り、血の残劇は鮮烈と、アルジェントはその恐怖の美学に磨きをかけたが、スタイルにこったあまり、物語が弱くなったのが難点」

音楽面から『オペラ座/血の喝采』を分析する

 アルジェントは音楽にロックを多用している。通常、ハード・ロック、ヘヴィ・メタルを多用すると音が映像に対して過剰になり、映画全体の雰囲気を壊しがちである。だが、アルジェントの映画は映像と音楽が何の違和感もなく融合している。青木透氏は「アルジェントの映画をよく聴くと、効果音とそれらのロック音楽との間が絶妙なバランスで録音されていることに気付くであろう」と指摘している。

 青木透氏は、「主に、ハード・ロックは、そのリズムと疾走感を、映像にとり込むためのBGMとなっている」と分析。ハード・ロックの音楽はアルジェントの映画の場合、基本的に人物が移動するシーンで使われてる。このことが、映像のリズムを助け、人物が移動するリズムとなっているという。確かに、『オペラ座/血の喝采』では、ヒロインのべティーが街をさまようシーンなどでハード・ロックが流れる。青木氏は「他の恐怖映画では、ハード・ロックやへヴィー・メタルの音楽が観客を脅すのに使われがちだが、アルジェントの映画で観客を脅すのは、主に映像それ自体の血腥さであり、効果音の音量である。効果音と音楽との間に、音量の強弱がつけられていて、それが、映画自体のメリハリとなっている」と説明する。

 『オペラ座/血の喝采』ではロックと平行して、ヴェルディやプッチーニなどのオペラが使われている。だが、これらが何の違和感もなく、一本の作品の中に溶け込んでいるのがこの映画の魅力のひとつでもある。アルジェントは「映画の中のバック・ミュージックとして、この映画では特に、各シーンの音楽の関係を密接になるように考えた。映画のリズムを考えながら選曲した」という。

詩的な作品

 『オペラ座/血の喝采』は高度にシンボリックな内容を扱っており、アルジェントは具体的な手段を使わずに、それを表現しようと試みた野心作だ。『オペラ座/血の喝采』はいわば、パゾリーニ的な言語による詩的な作品といえる。カメラの1つ1つの動きが心理的な裏付けによって決められている。

 また、アルジェントは『オペラ座/血の喝采』はエイズに関する映画だともみなせると語っている。この映画で描かれる愛は、エイズによって呪いをかけられたような存在だ。べティーはセックスをしたがらず、性的な関係を持ちたがらない主人公である。登場人物相互の関係は全般的に冷たく、お互いが一定の距離を置いている。これはまさにエイズから発生した悪夢的な状況といえる。

各映画ガイドによるストーリー紹介

各映画ガイドにおける作品紹介を比較する。短いコメント文でも、筆者の見解が分かれるのは興味深い。特にファンタスティック映画ビジュアルデータブックの解説文はかなり混乱しており、筆者は映画を観ていないと思われる。

ホラーの逆襲の紹介文 

 「『オペラ座の怪人』への挑戦と受け取って頂いて構わない」とアルジェントが語った野心作。製作費も700万ドルと過去最高であったが、アメリカでは10分あまりカットされ正式公開もされず、オペラ『マクベス』を上演すると不幸が起こるというジンクスをストーリーのベースにしたか、映画自体が不運に見舞われてしまったようだ。だが、映画はとても魅力に満ちたもので、『マクベス』『蝶々婦人』『椿姫』『ノルマ』などオペラの旋律が作品に風格を与え、オペラ座の空間で、甘美と恐怖がせめぎあう。オペラの歌詞がストーリーにリンクしているのだが、その部分の字幕がなかった日本では、作品理解に大きな打撃となった。これこそ不運。

ぴあシネマクラブの紹介文

 不幸を招くといわれるオペラ「マクベス」の主演女優が事故死し、新人ベティが代役に立つが、上演中に次々と猟奇的な殺人事件が起こっていく。残酷恐怖美学の旗手D・アルジェントが、オペラの名曲とロックのリズムにのせて展開する恐怖と暴力の世界。300メートルの移動クレーンによるカメラからオペラ座の舞台と客席を俯瞰するシーンは圧巻。

ファンタスティック映画ビジュアルデータブックの解説文

 オベラ界の有名なプリマドンナ、セシリア・ガスデイアは、20歳の時ある歌手がトラブルで役を降りたためにその代役として好運なデビューを飾った。この実話にヒントを得、ヴェルディの『リゴレット』の物語を導入して作られたアルジェント作品。不幸を招くという迷信のあるヴェルディの「マクベス」をシュールに舞台化しようとする前衛演出家マルコ。本稽古の最中に突然自殺した歌手(原文のママ:実際は事故で、自殺ではない)に代わり主役に抜擢されたベティだったが、次々と彼女の周囲で惨事が起こる。

 ヴエルディ、ペルリーニ、プッチーニらのオペラと、ローリング・ストーンズのロックを融合させるという画期的な試みに挑んだのはブライアン・イーノ。ミック・ジャガーがテーマ曲「オペラ」を歌っているのも大きな話題となった。(原文のママ:ローリング・ストーンズのビル・ワイマンが音楽を担当しているが、ミック・ジャガーは歌っていない)

 


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