TRAUMA
トラウマ/鮮血の叫び


Also Known As: Dario Argento's Trauma (1992), Aura (Germany), Aura's Enigma (later pre-production title), Moving Guillotine (original pre-production title)

trauma


1992 Color (Technicolor)




[STAFF]

trauma監督:ダリオ・アルジェント
脚本:フランコ・フェリーニ、ジャンニ・ロモリ、ダリオ・アルジェント、TEDクライン
制作:ダリオ・アルジェント、クリス・ベックマン
製作総指揮:T・デビッド・プッシュ、アンドレア・ティニレーロ
製作:ADCフィルムズ、オーバーシーズ・フィルムグループ
音楽:ピノ・ドナジオ
撮影:ラファエル・マルテス
編集:ベネット・ゴールドバーグ
キャスティング:イラ・ベルグランデ、ルイス・ディ・ジャコモ
美術:ビリー・ジェット
美術監督:ナンス・ダービー
セット:ジャクリーン・ジャコブソン
衣装デザイン:リーサ・エバンス
特殊メイク:グレッグ・ファンク、
トム・サビーニ、ウィル・ハフ、クリストファー・P・マーティン、トニー・サビーニ
パイパー・ローリーのヘアメイク:ロリ・ガイドロス
ヘアメイク:デースン・J・ホランド
ヘアメイク・メイクアップ助手:シェリル・ニック、トレーシー・リー・ローデン
制作主任:アンドリュー・サンズ
第1助監督:ロッド・スミス
第2助監督:フィリップ・エリンズ
第2班第2助監督:ダニエル・キャリー
小道具:ジョエル・ベントン
設営:ボブ・ヘドストーム
美術監督助手:マイケル・モーゲンサル
セット:コリー・シューベルト
マイク操作:ジャック・ボーノフ
音響効果編集:ティモシー・A・カーペンター
録音:ポール・コーガン
スタント:ジャック・ギル(自動車衝突)、キー・マイケルソン、ドンナ・クイン
24コマビデオ操作:スティーブ・オースチン
ポストプロダクションスーパーバイザー:スティーブ・バーネット
照明:クリス・バリー、エドガー・マーティン、マイケル・マルゾビラ、クリストファー・スカッチ、ニール・ウィリアムス
ロケーションマネジャー:ジョン・バーゴルツ
ロケーションマネジャー助手:ベス・アン・ランディン
衣装スーパーバイザー:アリソン・ブラウン
第1カメラ助手:リチャード・キャンツ
電気関連:ニック・キャプコビック、マイケル・「フラッシュ」・マクドナルド、クリス・バン・ザント
セット制作助手:デビッド・ダイアモンド、マーティン・(アラン)・クロナー、バーバラ・パストロビッチ
ダイアローグコーチ:ポール・ドラッパー
制作コーディネーター:アビガイル・シェイナー
制作コーディネーター助手:ホリー・エドワーズ、デビッド・レイ・マーティン
ゼネラルオペレーター:スコット・フィッシェル
カメラ・ステディカム操作:カーク・R・ガードナー
輸送:ポール・ジョルジ
音楽指揮:ビクター・ジュコブル
ビデオ助手:ジュダ・ハンナ
第2カメラ助手:D.J.ハンナ、デニス・リンチ
スクリプトスーパーバイザー:ディア・ヒッコックス
ルーマニア語指導:マイケル・ルプ
オーケストラ:ピノ・ドナッジオ、ナターレ・マッサーラ
物理効果スーパーバイザー:ポール・マーフィー
物理効果助手:ジェシカ・モリトール
スチール:カルロ・オンタル
宣伝:ニッキ・ポーター、シド・スワンク
ビデオグラファー:マイク・リバルド、ジェローム・セリア
編集助手:ジム・シマーホーン
現地キャスティング:バーバラ・シェルトン
シンセサイザープログラミング:パオロ・ステファン
衣装助手:スーザン・ストルベル
経理:ルチアーノ・タータリア
エキストラキャスティング:アンドレア・ワルフ

[CAST]

aura デビッド・パーソンズ:クリストファー・ライデル
アウラ・ペトレスク:
アーシア・アルジェント
アドリアーナ・ペトレスク:パイパー・ローリー
ジャド医師:フレデリック・フォレスト
グレース・ハリントン:ラウラ・ジョンソン
ステファン・ペトレスク:ドミニク・セラン
キャプテン・トラビス:ジェームス・ルッソ
アーニー:イラ・ベルグランデ
ロイド医師:ブラッド・ダリフ
リンダ・クイーク:ホープ・アレクサンダー・ウィリス
ヒルダ・ボークマン:シャロン・バー
ジョージア・ジャクソン:イサベル・モンク
ガブリエル・ピッカリング:コリー・ガーバン
ペッカリング婦人:テリー・パーキンス
ベン・アルドリッチ:トニー・サッフォード
マーク・レネール:ピーター・ムーア
サージャント・カーバー:レスター・プーリー
シド・マリーゴールド:デビッド・チェース
アリス:ジャッキー(ジャクリーン)・キム
リタ:リタ・バッサーロ
青白い男:ステファン・ダンブローズ
最初の女性:ボニータ・パーソンズ
ディールする男:グレゴリー・ビーチ
ジョン・ミラー:ケビン・ダッチャー
ゲア・グレイソン:キャシー・カーク
ポッター婦人:EA・ヴァイオレット・ボア
レゲエバンド:レス・エクソダス、オネスモ・キビーラ、イノセント・ミファリングランディ、チャールズ・ペトラス、ランス・ポロネーズ
ファラディ・クリニックの受付:フィオーレ・アルジェント
エキストラ:ウェンディ・フィッツヘンリー

[STAFF]

録音:ドルビーサラウンド
撮影地 :ミネソタ州ミネアポリス、ホプキンス、セントポール・アービンパーク(アメリカ)

フィルムネガフォーマット:35 mm(イーストマンコダック)
現像:テクノビジョン
フィルムプリントフォーマット35 mm
画面比 2.35:1
時間 :103分
日本配給 :イメージファクトリー・アイエム
公開:日本1992年4月8日(池袋シネマセレサにて)、イタリア1993年3月12日、米国1994年4月20日、フランス1994年8月10日
字幕:伊藤美穂

キネマ旬報掲載:紹介1132号、批評1132号、グラビア1128号

ストーリー

head グラフィックデザイナーのデビッドは、橋から川に身を投げようとしていた少女アウラを助ける。彼女は拒食症治療のために入院させられた精神病院から脱走していた。その後、警察に保護されたアウラは両親の元に送り返される。両親はルーマニアからの移民で、降霊術で生計を立てていた。アウラが戻った夜、降霊会の最中に、母親のエイドリアンに何者かの霊がとりつき、「この部屋に人殺しがいる」と叫んで暴風雨の中を外へ飛び出し、追いかけた父、ステファンと共に消えてしまう。後を追ったアウラの眼前で、両親は正体不明の殺人鬼によって首を切り落とされて殺された。
 不安と恐怖に襲われた彼女はデビッドを訪ねる。必死に手がかりを探す2人の前で、犯人は第2、第3の犯行を重ねる。2人は偶然見つけた写真から、犠牲者達をつなぐ糸口を発見する。アウラの両親の親友でもあった医師のジャドが犯人だと確信したデビッドは彼を追うが、ジャドの乗った自動車は大破し、社内から被害者の首が発見された。アウラはデビッドの前から姿を消し、彼は必死で彼女を捜す。
 ようやく彼女を捜し当てたデビッドに、アウラは母のエイドリアンは生きており、彼女が真犯人だと告げる。アウラの弟の出産の際、医療チームの失敗で赤ん坊の首をメスで切り落としてしまい、エイドリアンの記憶を消すために電気ショック療法を施していた。だが、赤ん坊の霊にあやつられるかのようにエイドリアンは赤ん坊を殺したものたちに復讐していたのだった。エイドリアンは2人を殺そうと迫ってきたが、家に忍び込んでいた隣の家の少年によって自らの凶器で首を切り落とされる。

アメリカ映画を目指したトラウマ

 トラウマのキャストを挙げてみよう。フレデリック・フォレスト、パイパー・ローリー、クリストファー・ライデル、ジェームス・ルッソ。とてもダリオ・アルジェントの映画のキャストとは思えない。アルジェントはアメリカ映画のような作品を撮ろうとしたのだろう。トラウマはアルジェントにとって新しいタイプの映画。スリラーであるが、ラブストーリーでもある。ホラー映画だが、現実ばなれしていない。アルジェントによれば、『オペラ座/血の喝采』が不可能な愛の物語であるのに対して、『トラウマ/鮮血の叫び』は愛が病気を治す物語とのことだ。『トラウマ/鮮血の叫び』は暴力だけでなく、愛や病気、麻薬問題など、いわゆる人生を語っている作品である。

 アウラの母親はブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』の印象が強かったため、パイパー・ローリーに決めた。フレデリック・フォレストが演じたジャド医師は、当初アンソニー・パーキンスにオフォーしていたが、パーキンスはエイズに感染していたため、実現できなかった。

 トラウマの原案はアルジェントがサスペリア2を撮っていたころすでに生まれていた。アルジェントが映画を作る手順は一様でない。トラウマは拒食症の少女、アウラの人物設定から始まった。このアイデアをもとにして原案を書き始め、麻薬やアルコール中毒などの今日的問題を取り入れようとしたが、当初の原案は短かったため、形にするまでに数年を要した。

 アルジェント自身のトラウマは、幼少の頃に孤独だったことだという。「わたしは不幸なことの中心にあるのは家族だと思っている。わたしの両親は2人とも働いていたため、孤立した子供になってしまった。その影響でこのような映画を作るようになってしまったのだ」とアルジェントは語っている。
「家庭」という言葉をアルジェントはよく使っている。デアボリック誌のマーシェル・ピークス氏の取材に対して、ダリア・ニコロディと一緒にした仕事のことについて、「遠い遠い昔の人生における別の時代のことだ」と語り、ニコロディとはもう一緒に仕事をすることはないだろうと述べている。そして当時を回想してこう語る。「『サスペリア』の撮影現場で誰かがわたしに言った。わたしの目的は家庭生活を崩壊させることか、と。今、わたしにとって不幸なことの中心にあるのは家庭だと思っているが、しばらくそのように言われたことを忘れていた。後になって考えてみると、彼は正しかったのだ。若い子供にとって両親が叫び、けんかしている姿を見るのは地獄だ。地獄以上かもしれない。アメリカで、飼い主がけんかしているのを見ているペットがおかしくなってしまったということを聞いたことがある」。

 米国の批評家の多くはトラウマがアルジェントの過去の作品と非常に違うと評している。アルジェントが今までのやり方を変え、新しい道に入ったとする声が多い。だが、アルジェント自身は多くの違いがあるわけではないと指摘する。自分自身、今まで何をやってきたかどうかを理解するには1000回ぐらいこの映画を観なければならないだろうという。

 トラウマの発想は現実の話から生まれた。『マスターズ・オブ・ホラー/悪夢の狂宴』を完成させ、とてもリラックスしていた頃だった。アルジェントが米国ニューイングランドのある都市を歩いていると、吐いている痩せ細った少女を見つけた。通りを歩く人々からは無視されていたが、アルジェントは拒食症で引き起こされる問題に興味を持ちはじめた。そこで以前からあった「アウラのエニグマ」という短い原案に拒食症のアイデアを取り入れ、それにゆっくりと肉付けをしていった。撮影はアイデアが生まれたニューイングランドで行うことにした。

 アルジェントはプロットを書き、キャラクターを設定している時に、アウラの役はアーシアにぴったりだと確信した。脚本を書いている途中で、アーシアはダリオが何を考えているか解ってしまったようだという。ダリオがアーシアを研究し、スパイのようにしているのに気づいてしまったのだ。そこでダリオは次の作品の主役はアーシアだということを彼女自身に話したのだった。また、アーシア・アルジェントはミケーレ・プラチドが監督した「心の友」で、父親に犯されたトラウマを抱える少女を演じて注目を集めたが、この作品がアルジェントを刺激したとも考えられる。女優として成長した姿を他人の監督作品で見せられて嫉妬したという面があるのかもしれない。

 『トラウマ/鮮血の叫び』の冒頭ではフランス革命の歌が流れる。これはアルジェントが、殺人鬼の役柄がギロチンのあった時代の人間にぴったりだと考えたからである。「ギロチンで悪人の首を切り落とすのは、悪人を成敗したという意味で市民にとっては喜ばしいこと。だから殺人鬼にとっても、悪人を倒したということで、喜びを味わう訳だ。そういう自分のイメージから、冒頭にフランス革命を使った」とアルジェントは説明する。また、映画に登場するスイッチを入れるとワイヤーが締まっていく首切断機は、アメリカに行ったときにTVで見たチェーンソーのCMから着想を得た。

 トラウマは他の作品に比べて暴力や血が少ない。イタリアでは現在、テレビ局からの出資がなければ、映画を作ることはほとんど不可能である。アルジェントの作品はテレビ放映時には大幅にカットされてきたため、アルジェントは観客が目を閉じずに済むような映画を作ろうと決めた。また、ラブ・ストーリーの要素が入っていることも暴力描写をソフトにした理由の1つである。

 『トラウマ/鮮血の叫び』にはトカゲやチョウなどが登場する。『サスペリア』や『フェノミナ』ではうじ虫が描かれている。アルジェントは「トカゲやうじ虫はフロイトの哲学ではセックスのシンボルである」と説明している。また、『トラウマ/鮮血の叫び』をはじめ、多くのアルジェント作品に登場するカーテンは母親のイメージだという。「暖かく包むこともできるし、包んで窒息させることもできる。母親も同じように、子供を守ることも、殺すことだってできる」とアルジェントは語っている。

 アーシア・アルジェントは『トラウマ/鮮血の叫び』の撮影に当たって、ダイエットし、ルーマニアなまりの英語を勉強、更には長期間の撮影で痩せてしまった。撮影中はサラダ類しか口にしなかったという。アウラの役作りでは、病院や医者から拒食症の話を聞き、拒食症になっている友人を観察し、インスピレーションを受けた。


 『トラウマ/鮮血の叫び』の撮影でアメリカにいる間、アルジェントはジョン・ランディス監督の『イノセント・ブラッド』にカメオ出演している。救急車の救命士の役だ。ランディスはアルジェントの旧友であり、『イノセント・ブラッド』に出てくる多くのカメオ出演者の1人としてアルジェントを指名した。『トラウマ/鮮血の叫び』の撮影では多くのスタッフがいたが、ランディスのスタッフはいたってシンプルなものだった。ランディスはカメラをセットし、演出し、また撮影し、といったように忙しそうだったため、アルジェントはランディスの手助けをしようとした。アルジェントは俳優たちに脚本の読み合わせをさせようと思ったのだ。だが、俳優たちはアルジェントに向かって冷たく「ファック・ユー」と言い放った。アルジェントは愕然とし、次の役者にも同じように声をかけたが、反応は同じだった。誰もが「ファック・ユー」と返してきた。「わたしはジョン・ランディスの手助けをしたかっただけなのに、なんてあいつらは無礼なんだ」とアルジェントは怒りがおさまらない。

 アルジェントと共同脚本を担当したT・E・D・クラインは、『王国の子ら』という中編ホラー小説を発表している作家である。トラウマとは心的外傷を意味する。

[ダリオ・アルジェントインタビュー(94年)]

聞き手:アンドレア・ジョルジ

「羊たちの沈黙」がアカデミー作品賞、監督賞、主演男優、女優賞、脚本賞を受賞するなど、ホラー映画が脚光を浴びる時代になってきましたね。「ドラキュラ」も大ヒットしました。このことについてどう思われますか。

---「ドラキュラ」には完全に満足したわけではないんだ。冒頭にあるルーマニアのセット撮影の部分は楽しめたが、その後の部分は忘れてしまった。良くないことに何のスタイルも持っていないんだ。コッポラは金を稼ぐためになんでもするからこんな作品が生まれたのだろう。でも、ラッキーなことに観客はこの映画を受け入れたみたいだ。わたしが彼を尊敬するのはこの点なんだ。「羊たちの沈黙」は非常に新しい映画だと思う。でも、小説と映画には違いがある。トマス・ハリスが小説で強調した多くの部分を映画では見ることができなかった。「刑事グラハム/凍りついた欲望(ビデオ題:レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙)」も同様だ。これも同じ作家によって書かれたものだが、小説は好きだったが、映画は好きにはなれなかった。


trauma

ジョン・ランディスの「イノセントブラッド」もありますね。この映画はいかがですか。

---ランディスは大親友だ。「歓びの毒牙」を観て、彼は映画監督になろうと決心したということをわたしに話してくれた。映画監督になる前、彼はフロアボーイに過ぎなかったんだ。この映画の撮影では、ダミーのセッティングなどでランディスの手伝いをした。役者が演じるのを手助けしたり、フレームをどうするかについて一緒に議論をした。ちょこっとカメオ出演もしているんだ。これはおもしろい仕事だった。

アルジェント監督の作品は、例えばジョン・カーペンターなどの多くの監督たちや70年代、80年代の作品にとって、サイコスリラーの手本となっています。そこでこのジャンルの作品のひとつである「ヘンリー(ビデオ題:ヘンリー/ある連続殺人鬼の記録)」についてどう思われますか。

--- 数年前にアメリカで観たことがある。監督のマクノートンは観客に見せられないような冷たく暴力的な映画を作ったとわたしに話したよ。観客はそんなインパクトを受けただろう。記録されるべき作品だが、コメントはできない。記録映画のような作品だが、スタイルは個性的な印象的なものだった。わたしが間違っていなければ、この種の作品はイタリアでは配給できないだろうね。

最新作、「トラウマ」が公開されました。これについては何か。

---米国の批評家はこの作品がわたしの過去の作品と大きく違うと評しているようだ。彼らはわたしが今までのやり方を変え、新しい道に入ったと言っている。本当のことを言えば、多くの違いがあるわけではないんだ。自分自身、今まで何をやってきたかどうかを理解するにはおそらく1000回はこの映画を観なければならないだろう。

トラウマの発想はどこから?

---現実の話からだ。わたしは米国のある都市にいて、街を歩いていた。その時、吐いている痩せこけた少女を見つけたんだ。彼女は通りを歩く人々からは無視されていたが、拒食症で引き起こされる問題に興味を持ちはじめた。「アウラのエニグマ」という短い原案を書き、それにゆっくりと肉付けをしていった。

トラウマは初めから娘のアーシアを主演にしようとして書かれたものですか。それとも後から、アーシアを出演させようと思ったのですか。

---プロットを書き、キャラクターを設定している時に、アウラの役はアーシアにぴったりだと確信した。脚本を書いている途中で、アーシアはわたしが何を考えているか解ってしまったようだ。わたしがアーシアを研究し、スパイのようにしているのに気づいてしまったのだ。そこでわたしは次の作品の主役はアーシアだということを彼女自身に話した。アーシアは実にすばらしかった。わたしも気付いていなかったような個性を発揮した。

Judd

トラウマは暴力や血が少ないようですね。万人向けの映画を作ったのは初めてのことでしょうか。その理由は。テレビ向けに売る必要があったからですか。

---今の時代、テレビ局からの出資がなければ、映画を作ることはほとんど不可能なんだよ。テレビ放映時には、わたしの作品は大幅にカットされてきた。そこで、観客が目を閉じずに済むような映画を作ろうと決めたんだ。

新しいテーマを持った作品

 『トラウマ/鮮血の叫び』はフランスのある批評家から、「最初の20分はすばらしいが、その後は普通の映画になってしまう」と評された。ダリア・ニコロディもこの意見に賛成している。確かにテンションが下がってしまう部分はあるが、トラウマ/鮮血の叫びはアルジェントが監督として確実に成長し続けていることを示す新しいテーマを持った作品といえる。現代の童話のような物語だ。たとえば、首を切られた看護婦の首が話し掛けるといったアイデアは斬新だ。ただ、こうしたアイデアはイタリアの評論家には散々に批判されることとなった。

音楽はピノ・ドナッジオ

 トラウマ/鮮血の叫びでは、当初、クラウディオ・シモネッティが音楽を担当する予定だったが、最終的にピノ・ドナッジオがオファーされた。アルジェントはストリングスを効果的に使用したいと思っていた。いつものハードロック、ヘビーメタルでは効果を上げられなかっただろう。

編集機

 トラウマ/鮮血の叫びでは編集時に「エディット・ドロイト」と呼ばれるルーカス・フィルムが開発したレーザーを内蔵した編集機を用いた。この機械を使うと、自分が欲しい映像をディスクに記録しておき、コンピューターを使用してOKとなったテイクをコマごとにつなげてテレビ画面上に並べることができる。差し換えたいコマがあれば、そのコマだけを換えることができる。そのため、非常に短時間で、バーチャルな編集ができることになる。編集者がゆっくりと考えながら編集する時間がなくなってしまう可能性もあるが、レーザーを利用した編集作業は今後、主流となっていくだろう。

バージョン違い


 以下のシーンはイタリア語版にはあるが、英語版からはカットされている。

  1. 隣の屋敷に殺人犯が住んでいるらしいと疑っている昆虫好きの少年が、壁に張り付いた珍しいトカゲに誘われるように問題の屋敷に忍び込み、凶器らしき物を発見するが、突然帰宅した家の主に驚いて逃げ出してくるシーンの直後、テレビ局で、美人アナウンサーのグレースと主人公デイビッドがガラスで隔てられたブース越しにマイクロフォンを使って会話するシーン。
  2. デイビッドが自宅にかくまっているアウラが心配になり、通りから電話すると、アウラが彼を安心させるために食事をしたと嘘を言って電話を切るシーン。アウラの背後にはきれいに片づいたキッチンが見える。
  3. 市場に買い出しに出かけたアウラがジャド医師に発見され、追いかけられるシーン。市場には色とりどりの食べ物が並んでいてカメラはそれを滑るように写し出す。混雑した市場の通りでドラムを手で叩いて演奏している黒人にアウラは目をとめる。
  4. 事件の鍵を握る女医を追ってモーテルへ泊まる事にしたデイビットとアウラ。デイビッドがフロントで「駐車場が見える部屋にして下さい」と願い出るシーン。離れた壁によりかかったアウラがプールで母親に怒られている子供を見ているショット。

各映画ガイドにおける作品紹介


 各映画ガイドにおける作品紹介を比較する。短いコメント文でも、筆者の見解が分かれるのは興味深い。

ホラーの逆襲の紹介文 

アルジェントの次女アーシアを主演に、アメリカに渡って撮り上げたミステリー・スりラー。『キャリー」(76)で狂気の母親を演じたパイパー・ローリーが、ここでもエキセントリックな母親(しかも霊媒!〕として登場。主役の娘オーラは拒食症に悩んでいるが、彼女の主治医ジャド役には、当初アンソニー・パーキンスを考えていたというアルジェント。ハイパー・ローリーにアンソニー・パーキンスまで登場したら犯人を推理する必要がなくなってしまう。フレデリック・フォレストに落ちついて正解だったと思われる。

ぴあシネマクラブの紹介文

 精神病院を脱走し、自殺しようとしていた拒食症の美少女オーラを助けたデビッドは、彼女に異様な何かを感じる。彼女が家に戻ったその夜、母親が主催する降霊会が開かれた。そこで彼女は、母親の身体に乗り移った霊によって、両親が首を切断されるという残虐な現場を目撃してしまう。恐怖にうちのめされる彼女が頼れるのはデビッドしかいなかった。ふたりで犯人捜しを始めるが、謎の首切り殺人鬼は第2、第3の犯行を重ねていく…。「サスベリア」で日本中を恐怖の渦に巻いたD・アルジェントらしい作品。事件のカギを握る美少女オーラ役に、監督の愛娘A・アルジェントを起用している。特殊メイクは「ゾンビ」のトム・サヴィーニ。

 

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