Also Known As: Dario Argento's Trauma (1992), Aura (Germany), Aura's Enigma (later pre-production title), Moving Guillotine (original pre-production title) |
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監督:ダリオ・アルジェント |
デビッド・パーソンズ:クリストファー・ライデル |
録音:ドルビーサラウンド キネマ旬報掲載:紹介1132号、批評1132号、グラビア1128号 |
グラフィックデザイナーのデビッドは、橋から川に身を投げようとしていた少女アウラを助ける。彼女は拒食症治療のために入院させられた精神病院から脱走していた。その後、警察に保護されたアウラは両親の元に送り返される。両親はルーマニアからの移民で、降霊術で生計を立てていた。アウラが戻った夜、降霊会の最中に、母親のエイドリアンに何者かの霊がとりつき、「この部屋に人殺しがいる」と叫んで暴風雨の中を外へ飛び出し、追いかけた父、ステファンと共に消えてしまう。後を追ったアウラの眼前で、両親は正体不明の殺人鬼によって首を切り落とされて殺された。 |
トラウマのキャストを挙げてみよう。フレデリック・フォレスト、パイパー・ローリー、クリストファー・ライデル、ジェームス・ルッソ。とてもダリオ・アルジェントの映画のキャストとは思えない。アルジェントはアメリカ映画のような作品を撮ろうとしたのだろう。トラウマはアルジェントにとって新しいタイプの映画。スリラーであるが、ラブストーリーでもある。ホラー映画だが、現実ばなれしていない。アルジェントによれば、『オペラ座/血の喝采』が不可能な愛の物語であるのに対して、『トラウマ/鮮血の叫び』は愛が病気を治す物語とのことだ。『トラウマ/鮮血の叫び』は暴力だけでなく、愛や病気、麻薬問題など、いわゆる人生を語っている作品である。 アウラの母親はブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』の印象が強かったため、パイパー・ローリーに決めた。フレデリック・フォレストが演じたジャド医師は、当初アンソニー・パーキンスにオフォーしていたが、パーキンスはエイズに感染していたため、実現できなかった。 トラウマの原案はアルジェントがサスペリア2を撮っていたころすでに生まれていた。アルジェントが映画を作る手順は一様でない。トラウマは拒食症の少女、アウラの人物設定から始まった。このアイデアをもとにして原案を書き始め、麻薬やアルコール中毒などの今日的問題を取り入れようとしたが、当初の原案は短かったため、形にするまでに数年を要した。 アルジェント自身のトラウマは、幼少の頃に孤独だったことだという。「わたしは不幸なことの中心にあるのは家族だと思っている。わたしの両親は2人とも働いていたため、孤立した子供になってしまった。その影響でこのような映画を作るようになってしまったのだ」とアルジェントは語っている。 米国の批評家の多くはトラウマがアルジェントの過去の作品と非常に違うと評している。アルジェントが今までのやり方を変え、新しい道に入ったとする声が多い。だが、アルジェント自身は多くの違いがあるわけではないと指摘する。自分自身、今まで何をやってきたかどうかを理解するには1000回ぐらいこの映画を観なければならないだろうという。 トラウマの発想は現実の話から生まれた。『マスターズ・オブ・ホラー/悪夢の狂宴』を完成させ、とてもリラックスしていた頃だった。アルジェントが米国ニューイングランドのある都市を歩いていると、吐いている痩せ細った少女を見つけた。通りを歩く人々からは無視されていたが、アルジェントは拒食症で引き起こされる問題に興味を持ちはじめた。そこで以前からあった「アウラのエニグマ」という短い原案に拒食症のアイデアを取り入れ、それにゆっくりと肉付けをしていった。撮影はアイデアが生まれたニューイングランドで行うことにした。 アルジェントはプロットを書き、キャラクターを設定している時に、アウラの役はアーシアにぴったりだと確信した。脚本を書いている途中で、アーシアはダリオが何を考えているか解ってしまったようだという。ダリオがアーシアを研究し、スパイのようにしているのに気づいてしまったのだ。そこでダリオは次の作品の主役はアーシアだということを彼女自身に話したのだった。また、アーシア・アルジェントはミケーレ・プラチドが監督した「心の友」で、父親に犯されたトラウマを抱える少女を演じて注目を集めたが、この作品がアルジェントを刺激したとも考えられる。女優として成長した姿を他人の監督作品で見せられて嫉妬したという面があるのかもしれない。 『トラウマ/鮮血の叫び』の冒頭ではフランス革命の歌が流れる。これはアルジェントが、殺人鬼の役柄がギロチンのあった時代の人間にぴったりだと考えたからである。「ギロチンで悪人の首を切り落とすのは、悪人を成敗したという意味で市民にとっては喜ばしいこと。だから殺人鬼にとっても、悪人を倒したということで、喜びを味わう訳だ。そういう自分のイメージから、冒頭にフランス革命を使った」とアルジェントは説明する。また、映画に登場するスイッチを入れるとワイヤーが締まっていく首切断機は、アメリカに行ったときにTVで見たチェーンソーのCMから着想を得た。 トラウマは他の作品に比べて暴力や血が少ない。イタリアでは現在、テレビ局からの出資がなければ、映画を作ることはほとんど不可能である。アルジェントの作品はテレビ放映時には大幅にカットされてきたため、アルジェントは観客が目を閉じずに済むような映画を作ろうと決めた。また、ラブ・ストーリーの要素が入っていることも暴力描写をソフトにした理由の1つである。 『トラウマ/鮮血の叫び』にはトカゲやチョウなどが登場する。『サスペリア』や『フェノミナ』ではうじ虫が描かれている。アルジェントは「トカゲやうじ虫はフロイトの哲学ではセックスのシンボルである」と説明している。また、『トラウマ/鮮血の叫び』をはじめ、多くのアルジェント作品に登場するカーテンは母親のイメージだという。「暖かく包むこともできるし、包んで窒息させることもできる。母親も同じように、子供を守ることも、殺すことだってできる」とアルジェントは語っている。
アルジェントと共同脚本を担当したT・E・D・クラインは、『王国の子ら』という中編ホラー小説を発表している作家である。トラウマとは心的外傷を意味する。 |
聞き手:アンドレア・ジョルジ ---「ドラキュラ」には完全に満足したわけではないんだ。冒頭にあるルーマニアのセット撮影の部分は楽しめたが、その後の部分は忘れてしまった。良くないことに何のスタイルも持っていないんだ。コッポラは金を稼ぐためになんでもするからこんな作品が生まれたのだろう。でも、ラッキーなことに観客はこの映画を受け入れたみたいだ。わたしが彼を尊敬するのはこの点なんだ。「羊たちの沈黙」は非常に新しい映画だと思う。でも、小説と映画には違いがある。トマス・ハリスが小説で強調した多くの部分を映画では見ることができなかった。「刑事グラハム/凍りついた欲望(ビデオ題:レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙)」も同様だ。これも同じ作家によって書かれたものだが、小説は好きだったが、映画は好きにはなれなかった。
ジョン・ランディスの「イノセントブラッド」もありますね。この映画はいかがですか。 ---ランディスは大親友だ。「歓びの毒牙」を観て、彼は映画監督になろうと決心したということをわたしに話してくれた。映画監督になる前、彼はフロアボーイに過ぎなかったんだ。この映画の撮影では、ダミーのセッティングなどでランディスの手伝いをした。役者が演じるのを手助けしたり、フレームをどうするかについて一緒に議論をした。ちょこっとカメオ出演もしているんだ。これはおもしろい仕事だった。 アルジェント監督の作品は、例えばジョン・カーペンターなどの多くの監督たちや70年代、80年代の作品にとって、サイコスリラーの手本となっています。そこでこのジャンルの作品のひとつである「ヘンリー(ビデオ題:ヘンリー/ある連続殺人鬼の記録)」についてどう思われますか。 --- 数年前にアメリカで観たことがある。監督のマクノートンは観客に見せられないような冷たく暴力的な映画を作ったとわたしに話したよ。観客はそんなインパクトを受けただろう。記録されるべき作品だが、コメントはできない。記録映画のような作品だが、スタイルは個性的な印象的なものだった。わたしが間違っていなければ、この種の作品はイタリアでは配給できないだろうね。 最新作、「トラウマ」が公開されました。これについては何か。 ---米国の批評家はこの作品がわたしの過去の作品と大きく違うと評しているようだ。彼らはわたしが今までのやり方を変え、新しい道に入ったと言っている。本当のことを言えば、多くの違いがあるわけではないんだ。自分自身、今まで何をやってきたかどうかを理解するにはおそらく1000回はこの映画を観なければならないだろう。 ---現実の話からだ。わたしは米国のある都市にいて、街を歩いていた。その時、吐いている痩せこけた少女を見つけたんだ。彼女は通りを歩く人々からは無視されていたが、拒食症で引き起こされる問題に興味を持ちはじめた。「アウラのエニグマ」という短い原案を書き、それにゆっくりと肉付けをしていった。 ---プロットを書き、キャラクターを設定している時に、アウラの役はアーシアにぴったりだと確信した。脚本を書いている途中で、アーシアはわたしが何を考えているか解ってしまったようだ。わたしがアーシアを研究し、スパイのようにしているのに気づいてしまったのだ。そこでわたしは次の作品の主役はアーシアだということを彼女自身に話した。アーシアは実にすばらしかった。わたしも気付いていなかったような個性を発揮した。 トラウマは暴力や血が少ないようですね。万人向けの映画を作ったのは初めてのことでしょうか。その理由は。テレビ向けに売る必要があったからですか。 ---今の時代、テレビ局からの出資がなければ、映画を作ることはほとんど不可能なんだよ。テレビ放映時には、わたしの作品は大幅にカットされてきた。そこで、観客が目を閉じずに済むような映画を作ろうと決めたんだ。 |
『トラウマ/鮮血の叫び』はフランスのある批評家から、「最初の20分はすばらしいが、その後は普通の映画になってしまう」と評された。ダリア・ニコロディもこの意見に賛成している。確かにテンションが下がってしまう部分はあるが、トラウマ/鮮血の叫びはアルジェントが監督として確実に成長し続けていることを示す新しいテーマを持った作品といえる。現代の童話のような物語だ。たとえば、首を切られた看護婦の首が話し掛けるといったアイデアは斬新だ。ただ、こうしたアイデアはイタリアの評論家には散々に批判されることとなった。 |
トラウマ/鮮血の叫びでは、当初、クラウディオ・シモネッティが音楽を担当する予定だったが、最終的にピノ・ドナッジオがオファーされた。アルジェントはストリングスを効果的に使用したいと思っていた。いつものハードロック、ヘビーメタルでは効果を上げられなかっただろう。 |
トラウマ/鮮血の叫びでは編集時に「エディット・ドロイト」と呼ばれるルーカス・フィルムが開発したレーザーを内蔵した編集機を用いた。この機械を使うと、自分が欲しい映像をディスクに記録しておき、コンピューターを使用してOKとなったテイクをコマごとにつなげてテレビ画面上に並べることができる。差し換えたいコマがあれば、そのコマだけを換えることができる。そのため、非常に短時間で、バーチャルな編集ができることになる。編集者がゆっくりと考えながら編集する時間がなくなってしまう可能性もあるが、レーザーを利用した編集作業は今後、主流となっていくだろう。 |
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ホラーの逆襲の紹介文 アルジェントの次女アーシアを主演に、アメリカに渡って撮り上げたミステリー・スりラー。『キャリー」(76)で狂気の母親を演じたパイパー・ローリーが、ここでもエキセントリックな母親(しかも霊媒!〕として登場。主役の娘オーラは拒食症に悩んでいるが、彼女の主治医ジャド役には、当初アンソニー・パーキンスを考えていたというアルジェント。ハイパー・ローリーにアンソニー・パーキンスまで登場したら犯人を推理する必要がなくなってしまう。フレデリック・フォレストに落ちついて正解だったと思われる。 ぴあシネマクラブの紹介文 精神病院を脱走し、自殺しようとしていた拒食症の美少女オーラを助けたデビッドは、彼女に異様な何かを感じる。彼女が家に戻ったその夜、母親が主催する降霊会が開かれた。そこで彼女は、母親の身体に乗り移った霊によって、両親が首を切断されるという残虐な現場を目撃してしまう。恐怖にうちのめされる彼女が頼れるのはデビッドしかいなかった。ふたりで犯人捜しを始めるが、謎の首切り殺人鬼は第2、第3の犯行を重ねていく…。「サスベリア」で日本中を恐怖の渦に巻いたD・アルジェントらしい作品。事件のカギを握る美少女オーラ役に、監督の愛娘A・アルジェントを起用している。特殊メイクは「ゾンビ」のトム・サヴィーニ。 |
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